空に輝く太陽をよく見ると
空で白色に輝く太陽 ( 図 1 参照 )。眩しくて、直視することはできませんが、光の量をカットするようなフィルター (減光フィルター) を通して望遠鏡で観察すると、図 2 のように見えます。後に述べるような、特定の波長の光のみを透過するフィルターを通さず、この図のように減光フィルターのみを通して見ることを「 白色光 脚注 [白色光]:特殊なフィルターを通していない光 (可視光) を撮影したという意味です。 」での観測と表現します。
普通の写真とは違って、図に色の情報は無く、単に光の強弱を白黒で表現しているということに注意してください。他の観測装置で得られた画像と区別するために、人工的に着色して公開されていることも多いです。
図を見ると、はっきりとした表面が確認できます。このように、白色光で観測したときに光が発せられている面が太陽表面、または 光球 脚注 [光球]:フィルターを通さずに可視光で観測したときに明るく映る層のことです。大雑把にはこの層が「太陽表面」と呼ばれます。より細かくは高度 0 から 500 km あたりの層を言います。 (photosphere) と呼ばれます。光球は綺麗な球状をしていて、太陽中心から光球までの半径は約 70 万 km です。これは地球半径のおよそ 100 倍です。表面より外側の領域は太陽大気、内側の領域は太陽内部と呼ばれます。この後、太陽大気の「高度」という概念が説明の中で出てきますが、それは太陽表面を高度ゼロとした値です ( より細かい高度ゼロの定義について 脚注 [太陽表面の細かい定義]:表面として見える高度は、正確には見る光の波長によっても違いますし、円盤状に見える太陽の中心部分を見るか縁の付近を見るかによっても微妙に変わります。波長 500 nm の光 (連続光) で中心部を観測したときに光が発せられている面が高度ゼロと定義されることが多いです。光球は高度ゼロから 500 km 程度の層を指します。 )。例えば高度 1000 km は太陽半径と比べると 0.1 % 程度の長さなので、図ではほぼ見分けがつかないくらい表面に近い層を指します。
また、図では矢印で示したような黒い点が所々に映っています。これは黒点 (sunspot) と呼ばれます。詳しくは記事「黒点:磁場が通り抜ける「穴」」で説明していますが、この黒点の位置や個数は見る日によって違います。1 つも見られない日もあります。
図 3 は日本の JAXA/ISAS が主体となって開発した観測衛星『ひので』が、図 2 と同じ日に宇宙から光球を観測した映像です。図 2 に矢印で示した黒点付近が拡大されて映っています。地上からの観測だと地球大気で屈折した光を見ることになるので、上空で気温の揺らぎがあると、どうしてもぼやけて見えてしまいます。これをなるべく防ぐために、天文台は高くて大気の薄い山の上に作られることが多いのですが、究極は地球大気の外、つまり宇宙から観測することです。現在は、それぞれ違う得意分野を持った衛星が 6 機 ( + α )、太陽専用の望遠鏡で観測を行っています。それぞれの衛星の特徴は記事「宇宙からの観測」で紹介しています。
図 3 を見ると、光球は基本的に細胞のような粒々模様からできていることが分かります。これは粒状斑 (granulation) と呼ばれます ( 図 4 参照 )。粒状斑については記事「粒状斑:太陽表面での対流」を見てください。黒点はかなり複雑な模様をしています。黒点と呼ぶほどでもない小さいものはポア (小黒点, pore) と呼ばれます。
日食時に見られるコロナ
太陽は月の約 400 倍の半径を持ちます。一方で、太陽は月の 400 倍、地球から離れたところにあります。この 2 つの値の偶然の一致によって、太陽と月は地球からちょうど同じ位の大きさに見えます。そのため、運よく月が太陽の手前に陣取り、太陽を隠してしまうことがあります。この現象を日食 (eclipse) と言います。日食のときには 図 5 のような姿が (白色光で) 観測されます。
図では普段、地上からは見ることのできない太陽大気が明るく映っています。この画像で映っているような高高度の (表面から遠い部分の) 大気をコロナ (corona) と言います。より細かくは、高度数千 km より上の大気のことです。
光球で発せられた光が観測されるまでに辿る経路は、次の 3 種に分類できます ( 図 6 上段参照 )。(A) 途中で経路を曲げられることなく直接観測装置に届く光、(B) 地球大気を構成する粒子にぶつかって経路を曲げられる光、(C) 太陽コロナを構成する粒子にぶつかって経路を曲げられる光です。強度としては (A) の光がいちばん強く、 (B)、(C) の順に弱くなります。普段の太陽では、明るく輝く本体は (A) の光、その周りはほとんど (B) の光が見えています( 図 6 下段参照 )。しかし、日食時に (A) の光が月に遮断されると、それに伴って (B) の光も弱くなるため、(C) の光を見ることができるようになります。このようにして、日食時にはコロナが観察できるわけです。
光球を円盤で隠し、望遠鏡内での反射も抑えることによって、日食時以外でも白色光でコロナを観察することができるようにした装置をコロナグラフと言います。高山でコロナグラフを用いれば、 (B) の光はある程度弱いため、太陽面に近い部分の (C) の光 (すなわち低高度のコロナ) を観測できます。あるいは観測衛星にコロナグラフを搭載すれば、地球大気の影響を受けずにコロナを観察できます。
図 7 は ESA (欧州宇宙機関) と NASA が共同で開発した衛星 SOHO に搭載されたコロナグラフによって撮影された画像です。衛星に搭載されたどの装置による観測データであるかを見分けやすくするために、図に載せたコロナグラフの画像は人工的に赤く着色されていますが、白色光で観測されたものです。先ほどの日食の画像より更に高高度のコロナが観察できます。コロナグラフで見られる構造については記事「磁場の構造 Part 1:コロナや惑星間空間の磁場モデル」で説明しています。
特定の波長で太陽を見る
日食のタイミングやコロナグラフを用いると、光球からの光を遮断して大気を観察することができると説明しました。詳しい理屈は記事「スペクトル線:なぜ様々な光で観測するのか?」で説明していますが、特定の波長の光だけを通すようなフィルターを取り付けた望遠鏡で太陽を観測することによっても、光球からの光をブロックして、太陽大気の特定の高度の層を見ることができます。図 3 では光球が映っていましたが、実は白色光ではなく、波長 430 nm (通称 G バンド) の光で観測した画像です。 一方で、図 8 は波長 656.28 nm (通称 Hα 線) の光のみを通すフィルターを通して観測された、図 2 と同じ日の太陽です。
特定の波長 (色) で撮った画像なので、画像に色の情報は無く、ただ得られた光の強弱を白黒で表現しています。図 2 と同じように黒点が写っていますが、図 8 には他にもいろいろな模様が映っています。この画像では主に光球の少し上、高度数百から数千 km の領域が映っています。光球とコロナの間の層です。この領域は 彩層 脚注 [彩層]:太陽大気のうち、高度 500 km から数千 km の層を指します (太陽半径は約 70 万 km)。太陽表面より少しだけ上の領域と考えてください。例えば波長 656.3 nm (Hα 線) や 396 nm (Ca H 線)、 30.4 nm の光などで観測すると見ることができます。 (chromosphere) と呼ばれます。
Hα 線は色でいうと赤なので、彩層の画像は慣習的に紅色で着色されます。図 8 を着色すると 図 9 になります。明るい領域は白色に近い赤、暗い領域は黒色に近い赤で表現されています。
図 9 において、暗い構造が見えるように、画像の輝度レベルを上げたものが 図 10 です。太陽面内はこの処理の代償として所謂「白飛び」してしまいましたが、代わりに縁でコロナまで飛び出した構造が視認できるようになりました。矢印で示したこのような構造をプロミネンス (prominence) と言います。プロミネンスについて詳しくは記事「プロミネンス:コロナに浮かぶ謎の雲」を見てください。
プロミネンスも、明るい太陽面内も、両方視認できるように加工したものが 図 11 です。 図 9 と 図 10 を太陽面の縁で繋げたような加工と思っていただければ結構です。通常 Hα 線画像として公開されているものはこの状態のものだと思います。加工の代償として、縁に明るい地平線ができてしまっています。
図で暗く映っている構造は (ダーク) フィラメント (dark filament) と呼ばれます。フィラメントは明るい太陽面を背景にして見たときのプロミネンスです。一方で特に明るく映っている構造はプラージュ (plage) と呼ばれます。黒点の付近にできることが多いです。
彩層は Hα 線以外でも、例えば波長 393 nm (通称 Ca II K 線) や 396 nm (通称 Ca II H 線) などで見ることができます。ただし見え方は若干違います。図 12 は 図 11 の矢印で示した黒点付近をひので衛星が Ca II H 線で撮影したものです。図 3 の光球を映した動画の上空の彩層を見ていることになります。
動画を見ると、突然ぼわっと白く光る現象が多発していることに気が付くと思います。これはフレア (flare) と呼ばれます。フレアについては記事「フレア:太陽大気で起こる爆発」で説明します。
図 13 はひのでが別の日に太陽面の縁を Ca II H 線で捉えた画像です。右半分は着色以外の処理を施していない状態で、右半分は輝度レベルを上げて暗い構造を視認できるようにしたものです。
輝度レベルを上げると、Hα 線の画像と同じように、プロミネンスがあらわになります。表面付近に見える、針がとげとげしくたくさん並んだような構造はスピキュール (spicule) と呼ばれます。彩層の上部は基本的にこのスピキュールから構成されます。太陽面内と縁の外側の両方が見えるように処理をした映像を 図 14 に示しました。プロミネンスが雲のように漂う様子が見られます。
図 15 は 米国のビッグベアー太陽観測所にある望遠鏡 GST が H α 線で撮影した、彩層の詳細な姿です。中央に映る黒い影は上から見たプロミネンスです。プロミネンスの奥で揺らめく複雑な模様はファイブリルと呼ばれます ( 図 16 参照 )。ファイブリルについて詳しくは記事「磁場の構造 Part 2:表面付近の微細構造」、スピキュールについては記事「ジェット:噴出現象」で説明しています。
図 17 は国立天文台が YouTube にアップしている動画です。ひのでが太陽面の縁付近にある黒点を捉えた映像です。動画の前半は G バンドで撮られた光球の映像で、途中から Ca II H 線で撮られた彩層の映像に切り替わります。波長によって違う高度が見えていることが直観的に分かりやすいと思います。
宇宙から紫外線や X 線で見る
図 18 は NASA が開発した観測衛星 SDO が 図 2 や 図 11 と同じ日に撮影した太陽です。ただし、この図では波長 19.3 nm の光だけを通すフィルターが用いられています。この波長は X 線 脚注 [X 線]:電磁波 (光) のうち、波長が大体 0.01 nm から 10 nm の領域のものを X 線と言います。光子のエネルギーに換算すると、大体 100 eV から 100 keV の領域です。特に、波長 1 nm から 10 nm 程度の光 (軟 X 線) はコロナで発せられ、波長 0.1 nm 以下の光 (硬 X 線) は高エネルギー粒子の加減速によって発せられます。X 線は地球大気に吸収されるので、宇宙からの観測が必要です。 とも 紫外線 脚注 [紫外線]:電磁波 (光) のうち、波長が大体 10 nm から 380 nm の領域のものを紫外線と言います。波長 10 nm 付近 (極端紫外線) にある輝線はしばしばコロナの観測に用いられます。紫外線は地球大気に吸収されるので、宇宙からの観測が必要です。 とも呼べそうな領域の光です。人間の目が感じることはできません。図を見ると、今までの画像で明るかった光球や彩層は暗く映り、代わりにコロナが明るく映っていることが分かります。このように、コロナは X 線や 紫外線を用いることによっても観察することができます。ただし、これらの光は地球大気で吸収されてしまうため、地上にいる限りではコロナから発せられた光を観測することができません。よって、宇宙からの観測が必須となります。
図 19 は SDO が撮影した光球とコロナ (19.3 nm) を比較した動画です。図 18 が撮られた時間を含む前後 66 時間分を映しています。観測衛星 SDO は米国とその南の太平洋の上空、高度 36000 km を地球の自転と同じ周期で飛んでいます。これは太陽系のスケールで見ると、地球のすぐそばなので、 SDO は地球から見える太陽とほぼ同じ姿を捉えています。記事「差動回転:回り方がおかしい?」でも詳しく説明しますが、太陽は大体 30 日の周期で自転しているため、地球から見える太陽も回転しています。
図を見ると、黒点の上空のコロナは特に明るく光っており、時々刻々と様子が変化していることが分かると思います。この明るい部分は 活動領域 脚注 [活動領域]:太陽コロナの画像を見ると、特に明るく光っている領域が存在していることがあります。これを活動領域と言います。活動領域は磁場の強い領域であり、ふもとの太陽表面 (光球) には黒点があります。活動領域以外の領域を静穏領域と言います。コロナの画像で特に暗く見える領域はコロナホールと呼ばれます。 図の提供 NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams. (active region) と呼ばれます。活動領域について詳しくは記事「活動領域:フレアの量産源」で説明します。
SDO は上で説明した波長 19.3 nm 以外にも様々な波長の光でコロナを撮影しています。それぞれの波長でコロナの違う特徴を捉えることができます。例えば、図 20 は波長 17.1 nm の光で撮影されたものです。記事「コロナ加熱:温度構造がおかしい?」でも詳しく説明しますが、コロナは平均的に数百万 K ( ケルビン 脚注 [ケルビン]:温度の単位には基本的にケルビン (K) を用います。日常で使われる摂氏と目盛の幅は同じであり,摂氏 0 度は 273.15 K です。つまり,例えば 300 K は摂氏 26.85 度のことです。 ) の温度を持ちます。図 18 の 19.3 nm の光は 100 万 から 200 万 K の物質が特に敏感に明るく映ります。一方で、図 20 の 17.1 nm はそれより若干低めの温度の、10 万代後半から 100 万 K 程度の物質が存在すると特に敏感に明るく映ります。
図 21 はひので衛星が 0.4 から 2 nm の X 線を通すフィルターで同じ日に撮影したコロナです。分かりやすいように太陽面を青い線で示しました。こちらの画像では 200 万 K を超える、コロナ中の比較的熱い部分が明るく映ります。主に活動領域が明るく映っています。これらの画像では、曲がった筋状の構造が見られます。コロナループ (coronal loop) と呼ばれます ( 図 22 参照 )。
図 23 に SDO が波長 17.1 nm ( 図 20 と同じ ) と 13.1 nm で撮影したコロナの動画を示します。図 19 の動画と同じ期間の映像です。波長 13.1 nm は 1000 万 K の特に熱い物質が生成されたときに明るく輝くという特徴を持ちます。
動画の右側、波長 13.1 nm の方では、活動領域が時々、チカッと明るく輝きます。これがフレアです。このフレア時のふもとの彩層が 図 12 の動画で示されており、やはり明るく輝くのでした。
図 24 は波長 17.1 nm で撮られたコロナの詳細な姿です。 2 日間の様子です。図にはたくさんのコロナループが映っています。途中、赤い矢印で示した部分に、明るいループがニョキニョキと出現します。これはフレアが起きたときに度々観測される現象です。
電波で見る
上の節では、波長がとても短い電磁波 (光) である、X 線や紫外線で観測した太陽の姿を紹介しました。一方で、波長がとても長い電磁波である 電波 脚注 [電波]:電磁波 (光) のうち、波長が大体 0.1 mm より大きい領域のものを電波と言います。このうち、地球大気に吸収・反射されずに地上で観測できる領域は波長 1 mm から 10 m 程度 (周波数に換算すると 30 MHz から 300 GHz) です。多彩な物理機構によって発せられたものが観測されます。 で太陽を観測することによっても、他の波長の光では見られない現象を捉えることができます。
図 25 は国立天文台野辺山に設置された NoRH と呼ばれる装置によって、波長 18 mm の電波で観測された太陽です。NoRH はたくさんのパラボラアンテナを同時に同じ方向に向けることによって、太陽面の各部分から発せられる電波を高解像度で観測することを可能にした装置です。残念ながら NoRH は 2020 年に運用を終了しました。それどころか野辺山電波観測所自体も今、財政難で危機的な状況です (例えば朝日新聞のこの記事 を読んでください)。
図 11 と同じような模様が映っていることからも想像できるかもしれませんが、図 25 では彩層が映っています。黒点の付近は明るく映っていることが分かります。
例えばフレアが起きた時などには、高エネルギーの電子が発するものや、衝撃波に伴って発生するものなど、様々な機構によって発せられた電波が観測されます。そして、それらの中には詳しい発生機構がまだよく分かっていないものもあります。
まとめ
この記事では、まずは現在の観測技術で見ることのできる太陽の色々な姿を知っていただきたいという思いで、画像や動画を雑多に詰め込みました。それらの中ではたくさんの種類の複雑な現象が起きており、それぞれに名前が付いています。初めて知らされた方にはややこしかったと思います。例えば「Hα 線画像に映るフィラメントは上から見たプロミネンスである」というように、「地球から見える形態的分類としては違う名前が付いているけれども物理的には同じ現象」なんて場合もあるので、話が更にややこしくなっています。
どれか印象に残った現象があったでしょうか。これらの現象の多くは未だにすっきりと物理的な理解がされていません。太陽は身近な存在であり、古くから研究が行われてきたにもかかわらず、未だに謎の多い天体です。高精度の観測技術と高速のコンピュータのおかげで詳しい議論が出来るようになってきたのはここ数十年の出来事であり、太陽物理の研究は今まさに発展途上にあります。このサイトではそれらの謎や、現在分かっていることいないこと、また、太陽研究と共に発展してきた物理学を紹介します。