フレア

~太陽大気で起こる爆発~

公開日:2021 年 1 月 28 日
最終更新日 更新履歴
2021 年 3 月 23 日:画像を切り替えられる機能を追加
2021 年 1 月 28 日:公開
:2021 年 3 月 23 日

太陽大気では時々、フレアと呼ばれる爆発現象が起きます。フレアを詳しく観察すると、いろいろ不思議な現象が見られます。望遠鏡が捉えたフレアの姿や現在考えられている物理メカニズムを説明します。

目次

※ 記事は下に行くほどマニアックな内容になります。

※ マニア度:

太陽大気の瞬き

図 1   2015年2月9日0時 (世界時) から11日0時までの活動領域の様子:観測衛星SDO (Solar Dynamics Observatory) に搭載された装置 AIA が波長 13.1 nm の光で観測した。途中で起こる中規模 (M2.4) フレアを赤い矢印で示した。提供 NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams.

図 1 は2015年2月9日から2日間の太陽 コロナ 脚注 [コロナ]:高度数千 km より高層の大気を指します (太陽半径は約 70 万 km)。極端紫外線や X 線で見ることができます。 の様子です ( 図の色について 脚注 [図の色]:図に映っている太陽の色は人工的に着けられたものです。惑わされないでください。これらの図は、特定の波長の光だけを通すフィルターを付けた望遠鏡によって撮影されたものであり、要はモノクロ画像です。得られた光の強度を慣習に従った色によって図示しています。 )。コロナの中でも特に熱い温度である、1000万 K の物質が生成されると明るく輝くような波長の光で撮影されたものです。なぜ特定の波長で撮影するとコロナだけを明るく写すことができるのかについては記事「スペクトル線:なぜ様々な光で観測するのか?」で説明しています。

図 1 を見ると、大気の中のいたるところでチカチカと一瞬輝くような現象が起きていることが確認できると思います。特に、赤い矢印で示した場所ではひと際大きな明滅が起きています。図は早送りしているので一瞬に見えますが、例えば赤い矢印で示したものは光り始めてから数時間かけて元の明るさまで戻っています。このように、太陽大気の一部が突然輝きだし、典型的には数時間の時間スケールでまた元の明るさに戻るような現象はフレア (flare) と呼ばれます。赤い矢印のフレアは中規模なものに分類されます。

地震と同じように、規模の小さなフレアは比較的頻繁に起きます。記事「活動領域:フレアの量産源」でも触れているように、大きなフレアは大気の中の 活動領域 脚注 [活動領域]:太陽コロナの画像を見ると、特に明るく光っている領域が存在していることがあります。これを活動領域と言います。活動領域は磁場の強い領域であり、ふもとの太陽表面 (光球) には黒点があります。活動領域以外の領域を静穏領域と言います。コロナの画像で特に暗く見える領域はコロナホールと呼ばれます。 図の提供 NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams. と呼ばれる場所で起きます。このことにも関連して、フレアの起きる頻度は記事「11 年周期:太陽の睡眠サイクル」で説明している11 年周期にも依存します。この活動サイクルの極大期には1日に何個もの中規模フレアが観測されますが、極小期には中規模フレアが発生したということだけでニュースになる程珍しくなります。

光と共に現れる幾何学模様

図 2   2017年9月10日に起きた大規模 (X8.2) フレアのコロナでの様子:(左) SDO/AIA が波長 13.1 nm の光 (X線に近い紫外線) で撮影した映像。(右) SDO/AIA が波長 17.1 nm で撮影した映像。動画は9月10日14時56分 (世界時) 頃から約18時間の様子を表す。上部中央に動画の初めからカウントした現実の経過時間の目安を示した。このフレアの詳しい解析については Yan et al. (2018) を参照。提供 (観測) NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams. (映像) NASA's Scientific Visualization Studio.

図 2 は2017年9月10日に起きたフレアの様子です。動画の初めから終わりまでが現実の約18時間に対応します。図には現実の経過時間の目安も示されています。コロナの中の違う温度の物質が特に明るく光る2種類の波長で撮られた映像を並べました。図を見ると、動画開始から10秒後程で大気の一部が明るく輝き始めます。このフレアは大規模で珍しいものです。地震に例えると震度 6 弱や 6 強のようなイメージでしょう。

図 2 の映像で見ることができる一連の現象を 図 3 にまとめました。まず、フレア前には (A) のような構造が見えます。詳しくは記事「プラズマと磁場:磁力線が「実体」を帯びる」で説明していますが、映像で明るく見える線は 磁力線 脚注 [磁力線]:各場所での磁場の向きを繋げた曲線を磁力線と言います。理想的には磁力線の密集度がその場所での磁場の強さ (単位 T, テスラ) を表しますが、実際の図では特徴的な磁力線だけを間引いて描くため、この限りではありません。磁力線が分裂したり合流したりすることはありません。電気を通すプラズマでは磁力線は物質に凍結している (物質は磁力線に垂直な方向に動くことができない) ので、磁力線の動きはその場所でのプラズマ (物質) の動きを表します。 が現れたものです。つまり、フレア前の大気には (A) に赤線で示したような磁力線が存在すると考えられます。奥行きがどうなっているのかはこの画像からは分かりにくいです。

図 3   図 2 のフレアで起こる一連の現象のまとめ:説明は本文参照。

フレアが起こると、まず 図 2 の (B) に示したような構造が太陽の外側に向かって吹き飛んでいく様子が映ります。見逃した方はもう一度映像を再生してみてください。その後、 (C) のようなループ状の構造がたくさん現れて大きくなっていくように見えます。他の波長の映像も併せて解析すると、それぞれのループが大きくなっているのではなく、外側に熱いループが生まれると同時に内側のループが冷えて暗くなっていく様子が映っていることが分かります。最終段階では、左側の映像には (D) のような構造が残ります。(D) の構造は「カスプ状」と形容されます。因みに、(B) で見える十字型 (細かくは8本) に伸びる輝きは望遠鏡内で反射した光が観測されてしまっているものなので、太陽で起きている現象を写したものではありません。

図 4 は別の日に撮影された大規模フレアです。図 2 のフレアは地球から見える太陽の縁で起きたものですが、こちらは円盤状に見える太陽の真ん中に近い部分にある黒点を拡大して観測しているときに起きたものです。つまり、図 2 はフレアを横から見たものであるのに対し、図 4上から見たものです。また、動画の前半は 彩層 脚注 [彩層]:太陽大気のうち、高度 500 km から数千 km の層を指します (太陽半径は約 70 万 km)。太陽表面より少しだけ上の領域と考えてください。例えば波長 656.3 nm (Hα 線) や 396 nm (Ca H 線)、 30.4 nm の光などで観測すると見ることができます。 、後半は 光球 脚注 [光球]:フィルターを通さずに可視光で観測したときに明るく映る層のことです。大雑把にはこの層が「太陽表面」と呼ばれます。より細かくは高度 0 から 500 km あたりの層を言います。 の物質が写るような波長の光で撮られています。

図 4   2006年12月13日に発生した大規模 (X3.4) フレアの様子:(動画の前半) 観測衛星ひのでに搭載された装置 SOT が波長 396 nm の光 (Ca H 線) で観測した彩層。(動画の後半) 観測衛星ひのでに搭載された装置 SOT が波長 430 nm の光 (G バンド) で観測した光球。提供 国立天文台/JAXA.

図 4 でフレア時に見られる構造を 図 5 に示しました。このように、フレアを彩層で観測すると、典型的には2つの線構造 (フレアリボン) の間に多数のループ (アーケード構造) が瞬くように見えます。この多数のループは 図 2 の (C) で見られるループ構造を上から見たものであり、2つのリボンはそれらのループの足元が光っているものと考えられています。

図 5   図 4 の動画で現れるフレアリボン:ボタンを押すと説明の表示を切り替えられる。 2006 年 12 月 13 日 03:00 (世界時) での様子。提供 国立天文台/JAXA.

多くのフレアでは光球の様子はほとんど変化しませんが、図 4 のフレアは大規模なものなので、動画の後半に示されているように、光球でもかすかにフレアリボンが写っています。

このように、大規模フレアが起きると様々な構造が観測されます。これらの構造がなぜ形成されるのかについては、このページの下の節で現在の理解を説明します。

フレアの規模

図 6   2017年9月10日付近に GOES 衛星が観測した太陽からの X 線強度:この時期は GOES-15 と GOES-13 の2機の静止衛星によって観測が行われていて、各衛星が 0.05-0.4 nm の波長で観測したデータが青系統の色で、0.1-0.8 nm の波長で観測したデータが赤系統の色でプロットされている。提供 NOAA Space Weather Prediction Center/ SpaceWetherLive.com

GOESシリーズと呼ばれる USA の静止気象衛星群が常に X 線 脚注 [X 線]:電磁波 (光) のうち、波長が大体 0.01 nm から 10 nm の領域のものを X 線と言います。光子のエネルギーに換算すると、大体 100 eV から 100 keV の領域です。特に、波長 1 nm から 10 nm 程度の光 (軟 X 線) はコロナで発せられ、波長 0.1 nm 以下の光 (硬 X 線) は高エネルギー粒子の加減速によって発せられます。X 線は地球大気に吸収されるので、宇宙からの観測が必要です。 で太陽全体を監視しており、得られた X 線強度のピーク値によってフレアの規模を分類しています。例えば 図 2 のフレアが起きた2017年9月10日のデータを 図 6 に示しました。10日の16時頃に 図 2 のフレアが起きていて、このときの X 線強度のピーク値は \(8.2 \times 10^{-4} \ \text{W m}^{-2}\) です。このフレアの規模は「X8.2」と表現されます。ピーク値の位が \(10^{-8}\) なら A、 \(10^{-7}\) なら B、以後 C、Mときて、 \(10^{-4}\) なら X が頭に付きます。X より大きな位の記号は無く、例えばピーク値が \( 1.2 \times 10^{-3} \ \text{W m}^{-2}\) の場合は「X12」と表現されます。過去に観測されたいちばん大きなフレアは2003年11月4日の X28 だそうです。上で紹介した各フレアの規模はそれぞれの図のキャプションに示しておきました。

C, M, X クラスのフレアが解放するエネルギーは典型的には \(10^{21} - 10^{25} \ \text{J}\) であり、大きいものだと \(10^{26} \ \text{J}\) に上ると見積もられます。例えば東日本大震災本震のマグニチュード \(M\) は 9.0 とされていますが、よく知られるグーテンベルク-リヒターの半経験則

\(\log_{10} E=4.8+1.5M\)

から解放されたエネルギー \(E\) を計算すると、\(10^{18} \ \text{J}\) となります。このことを考慮すると、フレアのエネルギーの大きさが多少はイメージできるかもしれません。

図 6 を見ると分かるように、GOES の (赤色で示された方の) データはフレアが起きていないときには \(10^{-7} - 10^{-6} \ \text{W m}^{-2}\) の値をうろつきます。よって GOES のデータから C クラスより小さいフレアを判別するのは難しいです。近年の高性能の観測衛星の登場に伴って、 活動領域 脚注 [活動領域]:太陽コロナの画像を見ると、特に明るく光っている領域が存在していることがあります。これを活動領域と言います。活動領域は磁場の強い領域であり、ふもとの太陽表面 (光球) には黒点があります。活動領域以外の領域を静穏領域と言います。コロナの画像で特に暗く見える領域はコロナホールと呼ばれます。 図の提供 NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams. では A、B クラス相当の小さなフレアが頻繁に起きていることが分かってきました。このようなフレアは GOES で判別できるような「普通の」フレアに対してマイクロフレアと呼ばれます。更に、もっと小さいスケールのフレアらしき増光現象 (ナノフレア) の面影も確認されています。

表 7   GOES 衛星によって1976年から2000年の25年間に観測されたフレアの数:A クラスのフレアは除外されている。B クラスのフレアは検出が難しいため、実際にはもっと起きていると考えられる。Veronig et al. (2002) のデータを基に作成。

地震頻度についてのグーテンベルク-リヒター則と同じように、フレアの発生頻度にもべき乗則が存在します。表 7 は25年間に GOES 衛星で観測されたフレアの数を示したものです。M クラスのフレアは X クラスの大体10倍の頻度、 C クラスは更にその10倍の頻度で発生します。上述したように、GOES 衛星では B クラスのフレアを見つけることは難しいため、表の B クラスのフレア数は C クラスより少なくなっています。しかし、他の観測衛星による研究から、Bクラスのマイクロフレアは C クラスの10倍の頻度、A クラスは更にその10倍の頻度で起きることが分かっています。このことはマイクロフレアも普通のフレアと大体同じ物理機構で起きていることを示唆しています。

フレアで吹き飛ぶ物質

図 8   SOHO 衛星に搭載された LASCO と呼ばれる装置が観測した CME: 太陽本体を隠して白色光で撮影したもの。中心に描かれた白い丸が太陽表面の位置を表す。映像の端で太陽中心から太陽半径の約30倍離れている。提供 NASA/ESA, CDAW Data Center and The Catholic University of America in cooperation with the Naval Research Laboratory.

図 8図 2 のフレアが起きた時の、太陽の周りの様子です。観測衛星 SOHO が太陽本体を隠した上でその周りを 白色光 脚注 [白色光]:特殊なフィルターを通していない光 (可視光) を撮影したという意味です。 で撮影したものです。中心に書かれた白い丸が太陽表面の位置を表します。仮に密度の高い物質が存在すれば、太陽表面から発せられる光をたくさん散乱するため、図では明るく映ります。映像を見ると、フレアが起きた 16時頃以降、フレアによって飛ばされた物質が宇宙空間へ放出される様子が映っています。このような現象を CME (コロナ質量放出, coronal mass ejection) と言います。

図 9   図 8 に説明を加えたもの。提供 NASA/ESA, CDAW Data Center and The Catholic University of America in cooperation with the Naval Research Laboratory.

太陽の表面では、地球の 28 倍の重力がはたらいています。CME は、この重力を振り切って宇宙空間まで飛ばされるわけですから、フレアがとても激しい現象であることが想像できます。

全てのフレアが CME を伴うわけではありません図 10 はフレアが CME を伴う割合を示したものです。M クラスのフレアは大体 40 から 60 % 程度、 X クラスは 80 % 以上が CME を伴っていることが分かります。

図 10   フレアが CME を伴う割合:1301 個のフレアを地球から見える太陽円盤の内部で起きたもの、太陽円盤の縁で起きたもの、その中間の領域で起きたものに分け、そのうちの内部と縁に分類されたもの対して、フレアの規模ごとに統計を取った。横軸の下に記された数字は、その項目に分類された (CME を伴わないものも含めた) フレアの数を表す。太陽円盤の内部で起きたフレアに付随する CME は 図 8 の装置では検出が難しいと思われるため、このような統計方法が取られている。 Yashiro et al. (2005) のデータをもとに作成。

CME が運悪く地球を直撃すると、通信や電力インフラに影響を及ぼすことがあります。加えて、フレアによる X 線や紫外線の増光によっても人工衛星に障害が発生することがあります。このように、フレアや CME はときに社会インフラや人間活動に被害を及ぼします。詳しくは記事「CME:噴出するプラズマの雲」を含め、カテゴリ「太陽と地球」で説明します。

現在考えられているシナリオ

フレアとはいったい何なのでしょうか? 上の節で説明した、フレア時に見られる幾何学模様はどのような物理機構によって現れるのでしょうか? CME を伴う大規模なフレアの場合について、様々な観測やシミュレーションから明らかになってきた、現在考えられているシナリオを説明します。

図 11   磁気リコネクションの模式図

フレアでは磁気リコネクションと呼ばれる物理過程が重要になるので、まずはその説明をします。詳しくは記事「様々な現象を引き起こす磁気リコネクション」で説明します。何らかの理由で互いに反対を向いた 磁力線 脚注 [磁力線]:各場所での磁場の向きを繋げた曲線を磁力線と言います。理想的には磁力線の密集度がその場所での磁場の強さ (単位 T, テスラ) を表しますが、実際の図では特徴的な磁力線だけを間引いて描くため、この限りではありません。磁力線が分裂したり合流したりすることはありません。電気を通すプラズマでは磁力線は物質に凍結している (物質は磁力線に垂直な方向に動くことができない) ので、磁力線の動きはその場所でのプラズマ (物質) の動きを表します。 が押し付けられる ( 図 11 A ) と磁力線のつなぎ変わりが起きます ( 図 11 B )。磁力線はなるべく真っすぐになろうとする性質 (磁気張力) を持つため、つなぎ変わった磁力線は (B) に示した矢印の方へ、付近の物質と共に激しく加速されます。コロナでは 超音速 脚注 [音波]:プラズマ中も普通の気体と同じように、物質の疎密波 (縦波) が伝わります。これを音波と言います。音波の伝わる速さ (音速) は温度の 1/2 乗に比例するので、注目する場所ごとに異なります。 まで加速されるので 衝撃波 脚注 [衝撃波]:一般に音速を超える気体 (プラズマ) の流れが周りの気体にぶつかる場合に、密度と流速が不連続的に変化する面が形成されます。これを衝撃波と言います。衝撃波が形成されると、一般にはそれに伴って大量の熱も発生します。 も発生し、大量の熱も発生します。これを磁気リコネクションと言います。後の説明で再登場するので覚えておいてください。

活動領域の記事で説明していますが、 活動領域 脚注 [活動領域]:太陽コロナの画像を見ると、特に明るく光っている領域が存在していることがあります。これを活動領域と言います。活動領域は磁場の強い領域であり、ふもとの太陽表面 (光球) には黒点があります。活動領域以外の領域を静穏領域と言います。コロナの画像で特に暗く見える領域はコロナホールと呼ばれます。 図の提供 NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams. (黒点の上空) には複雑に絡まった磁力線が存在します。例えば 図 4 のフレアが起きる前の同領域の様子を 図 12 に示しました。(A), (B) は観測衛星ひのでが捉えた 光球 脚注 [光球]:フィルターを通さずに可視光で観測したときに明るく映る層のことです。大雑把にはこの層が「太陽表面」と呼ばれます。より細かくは高度 0 から 500 km あたりの層を言います。 コロナ 脚注 [コロナ]:高度数千 km より高層の大気を指します (太陽半径は約 70 万 km)。極端紫外線や X 線で見ることができます。 の様子です。(B) の画像には「S」の文字を反転させたような模様が見られます。この模様をシグモイドと言います。コロナの画像にシグモイドが現れたときは、そこで大きなフレアが起きる可能性があります。

図 12   図 4 のフレア前の活動領域の様子:(A) 観測衛星ひのでに搭載された装置 SOT が波長 430 nm (Gバンド) で捉えた 光球 脚注 [光球]:フィルターを通さずに可視光で観測したときに明るく映る層のことです。大雑把にはこの層が「太陽表面」と呼ばれます。より細かくは高度 0 から 500 km あたりの層を言います。 (B) 観測衛星ひのでに搭載された装置 XRT が X 線 脚注 [X 線]:電磁波 (光) のうち、波長が大体 0.01 nm から 10 nm の領域のものを X 線と言います。光子のエネルギーに換算すると、大体 100 eV から 100 keV の領域です。特に、波長 1 nm から 10 nm 程度の光 (軟 X 線) はコロナで発せられ、波長 0.1 nm 以下の光 (硬 X 線) は高エネルギー粒子の加減速によって発せられます。X 線は地球大気に吸収されるので、宇宙からの観測が必要です。 で捉えたコロナ。(A), (B) の提供 JAXA/ISAS, 国立天文台. (C) 表面磁場の観測結果をもとにして計算された磁力線の様子。黒点と黒点の間の構造が分かりやすいように、一部の磁力線だけを抜粋して図示していることに注意してほしい。Muhamad et al. (2017) の Figure 2, (a)。米国天文学会 の許可を得て掲載。© AAS. Reproduced with permission.

図 12 の (C) は、表面磁場の観測結果に基づいて電磁気学的な力のつり合いを解くことで計算された磁力線の様子です。2 つの黒点の間には、図のように歪められた磁力線の束が存在することがあります。シグモイドはこの磁力線の形状を表しています。

何かをきっかけにしてこのような束の中で磁力線のつなぎ変えが起こり、図 13 に赤とピンク色で示したような長い捻じれた磁力線 (磁気ロープ) が形成されることがあります。磁気ロープはその後、上昇を始めます。記事「プロミネンス:コロナに浮かぶ謎の雲」でも説明していますが、この原因については複数の説が考えられており、まだよく分かっていません。

図 13   活動領域の磁力線の想像図

上昇を始めた磁気ロープは、上を覆っていたアーケード状の磁場 ( 図 13 の青色 ) をどんどん巻き込んでいきます。図 14図 13 において磁気ロープと太陽表面を切断するような鉛直面における位置関係を表したものです。磁気ロープが上昇すると、もともとあった場所が低密度になるため、それを補うように内向きの流れが発生します ( 図 14 A )。すると、アーケード状の磁力線がこの内向きの流れによって互いに押し付けられます。

上で述べたように、互いに逆向きの磁力線が押し付けられると磁気リコネクションが起きるため、磁気ロープの下では上下方向に激しい加速が起きます ( 図 14 B )。これが磁気ロープを加速させ、上空に遮るものが無い場合は宇宙空間まで吹き飛ばします。つまり、CME は周りに磁力線や物質をまといながら吹き飛ばされた磁気ロープと解釈されます。

図 14   フレア発生のメカニズム その1

Yan et al. (2018) では、 図 2 のフレア前に見られた 図 15 (A) の構造は磁気ロープがあらわになったものであると解釈されています。

図 16 に緑色で示した部分のように閉じた磁力線の形状はプラズモイド (plasmoid) と呼ばれます。 図 15 (B) に示した上空へ吹き飛ぶ構造はこのプラズモイドを見ていると解釈されます。

図 15   図 2 のフレアで見られる構造の解釈

リコネクションによって加速された粒子 (主に電子) は、新たにできたループに沿って大気を降下し、ふもとの彩層まで届きます。彩層はコロナよりも高密度の気体でできているので、届いた粒子は他の粒子に衝突して減速し、激しく光ります。これが 図 15 (B) の輝きや 図 5 で説明したフレアリボンに相当します。あるいは熱くなったリコネクション領域からの磁力線に沿った熱伝導によっても彩層は加熱されます。加熱された彩層の物質は軽くなって浮き上がり、生成されたループ内を満たします。こうして 図 15 (C) のループが現れます。図 16 では、 図 15 (D) のカスプ状構造に相当する部分も見て取れると思います。

図 16   フレア発生のメカニズム その2

このように、観測とシミュレーションの発展によって、フレアのおおまかなシナリオは描けるようになってきました。以上の事柄をまとめると、フレアは活動領域の磁力線が複雑に絡まることで蓄積した磁気エネルギーが、磁気リコネクションによって、ダムの崩壊のように盛大に解放される現象であると理解されます。解放されたエネルギーの大部分は物質の運動エネルギーとして CME とともに上空へ飛ばされますが、一部は熱エネルギーや光のエネルギーにも変換されます。

大まかなシナリオとしては上述したものが一定の支持を得ていますが、細かい部分に注目すると、まだ解決していない問題も多く残っています。例えば、上の説明では磁気ロープが形成されてから、上昇する過程での磁気リコネクションがフレアを起こす ( = 大気を輝かせる) と説明しました。一方で、磁気ロープが形成される過程での磁気リコネクション ( = 磁力線のつなぎ変え) がフレアである可能性もあるようです ( 例えば Muhamad et al., 2017 )。このように、磁気ロープが先かフレアが先かについては、個々のフレアによって違うかもしれません。

磁気リコネクションの反応速度 (効率) を決めている物理は何か?という問題もあります。正に磁力線のつなぎ変わりが起きているミクロな現場では何が起きているのか、そしてその過程が系全体にどのように影響を及ぼすことで磁気リコネクションという一連の現象が起きるのか、正確にはまだよく分かっていません。

フレアに伴って、高エネルギーの粒子 (電子やイオン) が放ったであろう光 (X 線や 電波 脚注 [電波]:電磁波 (光) のうち、波長が大体 0.1 mm より大きい領域のものを電波と言います。このうち、地球大気に吸収・反射されずに地上で観測できる領域は波長 1 mm から 10 m 程度 (周波数に換算すると 30 MHz から 300 GHz) です。多彩な物理機構によって発せられたものが観測されます。 ) が観測されます。気体を構成する粒子は、例えば1000万 K の場合は大体 \(10^{-16} \ \text{J}\) といったように、通常はその温度に従ったエネルギーを持ちますが、ここでいう「高エネルギー粒子」とはその法則から外れて高いエネルギー (速さ) を持った粒子のことを指します。

図 8 に示したコロナグラフ LASCO の映像で、フレアが起きて CME が起きた後に、雪のような白い粒がたくさん現れます。これは、フレアに伴って発生した高エネルギー粒子がカメラに飛び込むことで発生したノイズです。

上述したように、この高エネルギー粒子は磁気リコネクションによって発生し、フレア全体のメカニズムにある程度関わっているのではないかと考えられていますが、生成機構について詳しくは分からないことも多いようです。

参考文献

記事全体として参考にしたレビュー

引用した文献

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