太陽の魅力

~分かってきたことも分からないことも~

発展を続ける太陽物理学

太陽研究の歴史

17 世紀初頭、ガリレオが当時発明されたばかりの望遠鏡を太陽に向け、黒点が太陽表面での現象であることに気が付きました ( 図 1 )。地動説を唱えると教会から断罪を受ける時代の出来事です。このときから、望遠鏡を用いた太陽観測の歴史が始まりました。

図 1   ガリレオによる黒点のスケッチ:Istoria e dimostrazioni intorno alle macchie solari (1613) より。提供 The Galileo Project .

黒点とは何なのかについては、その後 300 年ほど議論が続きました。天王星の発見などの様々な功績を残す 18 世紀後半の天文学者ハーシェルは、地球から見える明るい太陽表面の内側には暗い層があり、そこには人が住んでいると考えていました。黒点は表面に空いた穴であり、その暗い層が見えているという説もありました。

1800 年、ハーシェルはプリズムによる分光実験から、太陽光には目に見えない光が含まれることを示しました。赤外線の発見です。また、1810 年代には、フラウンホーファーによって、太陽スペクトルに暗い線 (吸収線) があることも分かりました。この吸収線を利用することで、太陽大気についての様々な情報が得られるようになりました。

そのひとつは太陽の組成です。1850 年代、ブンセンとキルヒホッフは、それぞれの吸収線が何らかの元素に対応していることを見出し、地球に存在する金属元素が太陽にも含まれていることを発見しました。メンデレーエフによって周期表が作られる前のことです。その後 1920 年代には、太陽の主な成分が水素とヘリウムであることが認識されるようになります。

20 世紀になると、このサイトで説明する様々な現象が発見され始めます。1908 年、ヘールは黒点に強い磁場があることを発見しました。1930 年には、リオによってコロナグラフが発明され、日食時以外にもコロナを観測できるようになりました。1940 年頃には、グロトリアンとエドレンによって、コロナが 100 万度の高温であることが発見されます。

この頃から、例えばアルベーンやシュバルツシルト (相対性理論の研究で有名なシュバルツシルトの息子)、カウリングのような多くの物理学者によって、太陽内部の構造や大気を構成するプラズマを数学的に記述するための理論が発展しました。その理論に基づいて様々な現象が予言され、実際に観測によって発見されることになります。

例えば 1950 年頃、ビアマンは彗星の尾に関する研究により、太陽から彗星に何かが飛んできていることを示唆しました。その後 1958 年に、パーカーによって、太陽は常に物質を宇宙空間に噴き出していることが理論的に予言されました。太陽風 (solar wind) と名付けられたこの現象は、1962 年に打ち上げられた探査機によって実際に観測されました。

このように、20 世紀後半になると、宇宙からの太陽観測が行えるようになります。例えば、太陽フレアは 1859 年、キャリントンらによって太陽表面が光る現象として発見されました。しかし、その実態はその後しばらくは謎のままでした。1970 年代のスカイラブ衛星に代表されるように、紫外線や X 線による宇宙からのコロナの観測が可能になると、コロナで起きるフレアの詳細な姿が調べられるようになりました。1990 年代の日本の「ようこう」衛星によって、フレアの要である物理過程が観測的に明らかになりました。

21 世紀に入ると、高機能の観測衛星や大型の太陽望遠鏡が次々に登場し、より詳細な観測が行えるようになります。一方で、コンピュータの高速化に伴い、太陽で起きる現象を理論面でも詳細に議論できるようになってきました。今や、コンピュータを用いてフレアのような現象をそこそこ現実的に再現できる時代です。フレアの予報を実現しようとする研究グループもあります。

太陽物理学

太陽物理学は、太陽の組成や構造、観測される活動現象の仕組みを解明する学問です。普段、我々の頭上で輝く太陽。詳しく観測すると、不思議な現象に満ち溢れています。このため、太陽物理学が解決すべき問題は多岐にわたります。そして、その多くはまだよく分かっていません。

上述したように、太陽物理学は長い年月をかけて、着実に発展してきました。現在も発展を続けています。例えば、米国は 2018 年、新たな探査機パーカー・ソーラー・プローブを打ち上げました ( 図 2 )。この探査機は太陽に接近し、コロナの中に飛び込むことで、太陽風が加速される現場を直に捉えようとしています。日本の研究チームも参加しているチリのアルマ望遠鏡では、太陽から来る電波を今までにない解像度で捉えることによって、太陽大気についての新たな情報を得ようとしています。

図 2   打ち上げを待つパーカー・ソーラー・プローブを載せたロケット:米国ケープカナベラル空軍基地にて。提供 NASA/Kim Shiflett.

参考文献

  • Solar Pysics Historical Timeline (HAO のサイト内、リンク 、2021 年 1 月 13 日閲覧)
  • Priest, E. (2014). Magnetohydrodynamics of the Sun (Cambridge: Cambridge University Press ). Chapter 1, 1.1.

太陽研究の道は紆余曲折

太陽研究 (だけでなく自然科学というもの) は紆余曲折を経て現在に至ります。その例として、太陽周期研究の歴史を紹介します。

太陽周期研究の紆余曲折

太陽黒点は約 11 年の周期で増えたり減ったりしています。これを太陽周期と言います。いちばん多い時期には同時にいくつもの黒点が現れているのが普通ですが、少ない時期にはひとつも見られない日が続きます。なぜこのような規則性があるのかは、現在まで続く太陽の未解決問題のひとつです。

太陽周期問題がどれくらい順調に、解決に近づいているように見えたかを年代ごとに表すグラフを 図 3 に示しました。あくまでも私個人の見解です。この問題は少なくとも 2 回の逆境に見舞われているように見受けられます。現在は最後のトラブルから立ち直ろうとしている途中にあります。

図 3   太陽周期研究の浮き沈み

1843 年、シュワーベは太陽黒点の出現数が周期的に変化していることに気が付きました。このとき、太陽周期問題が初めて認識されました。

しばらく経って 1908 年、ヘールが黒点に強い磁場が存在することを発見します。その後、ヘールやジョイらによって、黒点磁場の極性に関しても綺麗な統計性があることが示されます。こうして、太陽周期問題の本質は、黒点の磁場が作られる仕組みを説明することだという認識が広まります。

1919年、ラーモアによって、黒点磁場の起源は太陽内部の流れにあるのではないかという説が浮上します。現在では「太陽ダイナモ」と呼ばれる機構の基本原理の発見です。そう考えることで、ヘールらが見つけた統計性を上手く説明することができました。こうして、太陽周期問題は一気に解決に近づいたように見えました。

ところが 1934 年、カウリングによって、ラーモア発祥の理論だけでは磁場を作り出すことはできないことが数学的に示されました。現在では「カウリングの反ダイナモ定理」と呼ばれています。この定理によって、黒点の磁場が生成されるには、あとひとつ、何か重要な物理過程を考えなければならないことが分かりました。

これに対する打開策を見つけたのは 1950 年代、パーカーでした。彼はコリオリの力を考えることでカウリングの反ダイナモ定理を克服できると考えました。これを機に太陽ダイナモの研究は発展し、1970 年代の終わりには、世界中の研究者の間で一致した見解が得られるようになりました。「平均場ダイナモ」と呼ばれる理論です。

ここで 2 番目のトラブルが起こります。この平均場ダイナモ理論にいくつもの綻びが見え始めたのです。いちばん大きな打撃は 1980 - 90 年代の日震学によって明らかにされた太陽内部の自転の様子でした。当時のダイナモ理論が期待していた様子とは大きく違っていたのです。この新しい知見とも整合するように理論を組み立て直す必要に迫られました。

この大打撃を受けて、1960 年代に考えられていたけれども、平均場ダイナモの成功の陰に隠れていた「バブコック-レイトン機構」という物理過程が再び考えられるようになりました。このように、一度勢いを失った説が何かしらをきっかけに息を吹き返すことは、太陽研究の世界では度々あります。

読者に求める姿勢

このサイトでは、現在の観測で見ることのできる太陽の姿を紹介すると共に、今までの太陽物理学の研究で明らかになってきた太陽への理解を説明します。この先、更に研究が進むと、このサイトで説明している事項が間違いであることが分かるかもしれません。記事の内容を鵜呑みにせず、疑問を持ちながら読んでいただきたいです。その疑問の多くは私の説明不足が原因でしょう。しかし、一部は最新の研究でも分かっていないことかもしれません。

参考文献

太陽研究の意義

柴田 (2009) によると、太陽研究の意義は大きく次の 3 つにまとめられます。

  1. 太陽自身の解明 (太陽物理学としての意義)
  2. 地球への影響 (太陽地球系物理学—宇宙天気研究—としての意義)
  3. 星や天体磁気流体プラズマ現象の実験室 (天文学, 物理学としての意義)

太陽物理学としての意義

目に見える光 (白色光) で太陽を観測すると、のっぺりとした太陽表面が写り、日によっては黒点も見えます。一方、紫外線や X 線、電波など、目に見えない光で太陽を観測すると、黒点の上空に明るい磁力線のループがあったり、そこではときどき爆発 (フレア) が起きていたりと、白色光の観測だけでは知ることのなかった様々な活動が見えてきます ( 図 4 )。それらの活動の多くは磁場が大きな役割を果たしています。大きなフレアが起こる仕組みについては、徐々に明らかになってきました。しかし、まだ具体的に説明できない現象も多く存在します。

図 4   観測衛星SDO が捉えた中規模フレアの様子:提供 NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams.

20 世紀中ごろに、太陽コロナは表面よりずっと高温 (100 万度) であることが発見されました。太陽は外側から冷やされているはずなのに、外側の方が熱い。これはとても不自然な現象です。磁場が大きく関わっているだろうと考えられていますが、その具体的な加熱機構は未だに特定できていません。

ヘールによって黒点には強い磁場があることが発見されてから 100 年以上経ちますが、その磁場を維持する仕組みについては、まだ結論が出ていません。

このように、太陽にはまだよく分かっていないことがたくさんあります。太陽は我々にとって身近な存在であり、発する光は生物が生きるためのエネルギーの源です。その実態を観測し、理解を深めることは、古くから続く人間の営みです。

宇宙天気研究としての意義

太陽からは、太陽風と呼ばれる物質が常に噴き出しています。この物質は地球にも吹き付けていますが、地磁気が壁となることで地上にいる我々は守られています。しかし、大気上層や地球磁気圏の状態については、太陽風の影響を考慮せずには考えることができません。

太陽で大きなフレアが起こり、それに伴って吹き飛んだ物質が地球を直撃すると、飛行機などの通信に影響が出たり、運が悪いと人工衛星や変電所のような施設に障害が発生します。これらは今や人間の生活に欠かせない要素です。人類の宇宙進出が進むと共に、フレアや磁気嵐などの予報が必要な時代になりました。大気上層部や地球周辺の宇宙空間の状態を指す宇宙天気 (space weather) という言葉も生まれました。

このように、地球は太陽から恩恵を受けると共に、常に危険にもさらされています。太陽が地球に及ぼす影響を調べるには、まず太陽自身への理解が不可欠です。

天文学、物理学としての意義

太陽は、地球にいる我々が唯一詳細に観測することのできる恒星です。そこで得られた知識は、他の天体について考える際にも役に立ちます。太陽研究は夜空に浮かぶ星を考える際の重要な足がかりです。

太陽大気は電気を通す気体で、プラズマと呼ばれるものの一種です。プラズマは宇宙の基本的な構成要素のひとつであり、これを記述するための理論を基に、様々な天体について考えることになります。太陽大気で起こる現象は、我々が「答え合わせ」のできる貴重な天体プラズマ現象であり、そこで得られた知見がプラズマ物理学を発展させます。

参考文献

  • 柴田一成. (2009). 太陽研究の主要課題と意義. 桜井隆, 小島正宜, 小杉健郎 & 柴田一成 編, シリーズ 現代の天文学 第 10 巻 『太陽』 (東京: 日本評論社), 1.1 節.

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太陽の基本知識

太陽についての基本的な情報と、太陽物理学が解決すべき大きな問題を紹介します。

太陽のダイナミクス

太陽大気で観測される様々な現象の姿と、それらに対する現在の理解を示します。

太陽を見る目

太陽を観測する手法と観測装置について説明します。太陽観測は主に光を「見る」ことによって行われますが、そもそも光とは何かについても説明しています。

太陽を考える道具

太陽研究によって発展し、また太陽研究のために不可欠な物理学の知識を説明します。

太陽と地球

太陽が地球に及ぼす影響と宇宙天気について説明します。

おすすめの文献とサイト

こちらのページ にて、太陽に関する文献と有用なサイトを紹介しています。ただし、文献は学術書が中心になります。

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