黒点

~磁場が通り抜ける「穴」~

公開日:2021 年 1 月 26 日
最終更新日:2021 年 1 月 26 日

太陽表面に現れる黒点。遠くから見るとホクロの様ですが、詳しく見ると複雑な構造をしています。望遠鏡がとらえた黒点の姿を紹介し、「黒点とは何か?」という疑問に答えます。

目次

※ 記事は下に行くほどマニアックな内容になります。

※ マニア度:

太陽表面の「ホクロ」

図 1   黒点が出現した太陽表面:2014 年 10 月 19 日から 29 日の約 10 日間の様子。観測衛星 SDO (Solar Dynamics Observatory) に搭載された観測装置 HMI によって撮影された。映像に現れる黒点のうち、ひときわ大きな集団を矢印で示した。提供 NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams.

図 1 はSDOと呼ばれる観測衛星が撮影した 2014 年 10 月 19 日から 29 日の約 10 日間に渡る太陽表面です ( 図の色について 脚注 [図の色]:図に映っている太陽の色は人工的に着けられたものです。惑わされないでください。これらの図は、特定の波長の光だけを通すフィルターを付けた望遠鏡によって撮影されたものであり、要はモノクロ画像です。得られた光の強度を慣習に従った色によって図示しています。 )。表面は基本的にのっぺりと、均一な明るさをしていますが、所々に黒い領域が見えます。このホクロのような点は黒点 (sunspot) と呼ばれます。黒点にはそれぞれ名前が付けられています。例えば図の矢印で示した大きな黒点群は当時「AR2192」と呼ばれていました。

記事「差動回転:回り方がおかしい?」で説明しているように、太陽は大体 30 日の周期で自転しているので、地球から見える黒点はそれに伴って図の右へ移動して行きます。AR2192 は 10 月 19 日に図の丸で囲った縁から姿を表し、10 月30 日には右の縁に消えてしまいます。映像を細かく見ていると、AR2192 の形は時々刻々と変化していることが分かると思います。

黒点はホクロとは違い、出現と消滅を繰り返します。図の AR2192 以外の小さい黒点は、太陽の裏側に隠れてしまったらもう次に見ることはないでしょう。AR2192 はとても大きな黒点なので、30 日程度では消えることはないでしょう。図 2図 1 から約3週間後の 11 月 17 日の様子です。AR2192 が左の縁から再び姿を現している様子が確認できます。その形は 3 週間前とはかなり違っていて、黒い部分の面積は小さくなっているようです。

図 2   別の日の太陽表面:2014 年 11 月 17 日に SDO/HMI によって撮影された。提供 NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams.

このような黒点画像は NASA/SDO のサイト で見ることができます。このサイトでは現在の太陽を含め、過去の好きな日時の太陽を見ることができます。実際に検索すると、様々な種類の画像が出てきます。どの画像がどのような意味を持っているのかについては、別の記事「スペクトル線:なぜ様々な光で観測するのか?」で説明しています。

よく見ると複雑

図 3   黒点の動画:2010 年 5 月 23 日に望遠鏡 SST (Swedish 1-m Solar Telescope) によって撮影された、太陽表面の黒点。提供 Vasco Manuel de Jorge Henriques, Institute for Solar Physics.

図 3 は先ほどとは別の黒点をズームアップした映像です。SSTと呼ばれる地上の望遠鏡によって撮られました。この黒点は、図 1 に写っているAR2192以外の黒点程度の大きさですが、大体地球と同じくらいの大きさです。太陽全体の大きさに対しては小さい点だった黒点ですが、拡大して見ると複雑な構造をしています。動画は早送りされていて、初めから終わりの7秒間が現実の数十分に対応します。

黒点の周りの部分は、記事「粒状斑:太陽表面での対流」で説明しているように、太陽内部からの熱によって味噌汁のように対流運動をしています。しかし、黒点の中央部は黒くなっていて、両者の間には少しだけ暗い領域があります。黒い領域は暗部 (umbra)、少しだけ暗い領域は半暗部 (penumbra) と呼ばれます (図 4 参照)。

図 4   黒点の暗部と半暗部:提供 Vasco Manuel de Jorge Henriques, Institute for Solar Physics/ Swedish 1-m Solar Telescope (SST). 解説を加えた。
図 5   半暗部の動画:2002 年 7 月 15 日に SST によって撮影された、太陽表面の黒点。動画の初めから終わりまでが現実の27分39秒に対応する。提供 Institute for Solar Physics.

図 5 は別の黒点の半暗部を拡大した映像です。半暗部では、おたまじゃくしのような形の明るい構造がたくさん、黒点の外側から内側に向かって滝登りのように伸びていく様子が見られます。線状に見える構造は一般に英語で filament と言うため、それぞれのおたまじゃくしは半暗部フィラメントと呼ばれ、特におたまじゃくしの頭に相当する明るい点は半暗部輝点 (penumbral grain) と呼ばれます (図 6 参照)。

図 6   半暗部の微細構造:提供 Institute for Solar Physics, Swedish 1-m Solar Telescope (SST). 解説を加えた。

図 1 のように円盤状に見える太陽表面を自転に伴って黒点が動いていくと、太陽は球形なので、我々の視線に対する黒点の角度は刻々と変わっていきます。黒点を観察していると 図 7 のように、黒点が円盤の縁に行くほど手前側の半暗部の幅が狭く見えます。これは黒点の暗部が周りの表面に対して少し凹んでいることによる視覚効果で、ウィルソン効果と呼ばれます。ウィルソン効果について詳しくは 粒状斑の記事 で説明しています。

図 7   ウィルソン効果の模式図

黒点とは何か?

図 8   太陽表面の磁場の様子:2014 年 10 月 24 日に SDO/HMI によって撮影された。提供 NASA/SDO and the AIA, EVE, and HMI science teams.

図 8図 1 と同じ日に撮られた画像です。このような白黒の画像はマグネトグラムと呼ばれ、太陽表面の磁場の様子を表しています。磁場が奥向き (観測衛星から遠ざかる向き) である領域は黒色、手前向き (観測衛星に近づく向き) である領域は白色、磁場が弱い領域はグレーで表されています。どのようにして太陽表面の磁場の様子を知ることができるのかについては、記事「プラズマ診断:太陽を「見る」だけでここまで分かる」で説明しています。

図を見ると、AR2192の部分に大きな白黒の対があります。また、他の黒点がある場所にも、小さいですが同じような対が現れています。白黒の対になっていることについては記事「活動領域:フレアの量産源」で触れます。ここでは強い磁場がまとまって存在している領域が黒点になっているということに注目してください。黒点の磁場の強さは典型的には暗部が 0.3 T ( テスラ 脚注 [テスラ]:磁場の強さを表す単位です。理想的には磁力線の密集度に相当しますが、実際の図では特徴的な磁力線だけを間引いて描くため、この限りではありません。磁場の強さの単位には \(\text{G}\) (ガウス) が使われることもあり、\(1 \ \text{G}=10^{-4} \ \text{T}\) です。 )、半暗部が 0.2 T 程度です。例えばスピーカーに使われる磁石には 1 T 程度のものもあるので、我々の日常からすると特別強いとは言えないのかもしれませんが、地磁気の強さは \(10^{-5}\) T 程度なので、自然界に存在する磁場としては強い部類です。それも、地球を覆ってしまう程の領域にわたってその強さの磁場が存在しているのです。

図 9   黒点全体の磁場構造の模式図

黒点の磁場構造の模式図が 図 9 です。 磁力線 脚注 [磁力線]:各場所での磁場の向きを繋げた曲線を磁力線と言います。理想的には磁力線の密集度がその場所での磁場の強さ (単位 T, テスラ) を表しますが、実際の図では特徴的な磁力線だけを間引いて描くため、この限りではありません。磁力線が分裂したり合流したりすることはありません。電気を通すプラズマでは磁力線は物質に凍結している (物質は磁力線に垂直な方向に動くことができない) ので、磁力線の動きはその場所でのプラズマ (物質) の動きを表します。 を赤色で示しました。磁場の向きが上向きか下向きかは黒点によりますが、太陽表面のまとまった磁力線が突き抜けている部分が黒点になります。記事「プラズマと磁場:磁力線が「実体」を帯びる」で説明しているように、磁力線には、近くにある別の磁力線からなるべく離れようとする性質 (磁気圧) があります。太陽内部では周りの気体の圧力 (ガス圧) のせいで、磁力線はまとまらざるを得ませんが、大気はガス圧が内部に比べてずっと小さいため、磁力線は大気に出ると広がります

黒点はなぜ黒いのか?

黒点の画像を初めて見た人が誰しも思うであろう「黒点はなぜ黒いのか?」という疑問に答えます。記事「黒体放射:なぜ明るいのか?」で説明しているように、太陽は大雑把には「黒体放射」と呼ばれるメカニズムで光っています。この黒体放射には、表面の気体の温度が高いほど明るく光るという性質があります。太陽表面の温度は基本的に約 6000 K ( ケルビン 脚注 [ケルビン]:温度の単位には基本的にケルビン (K) を用います。日常で使われる摂氏と目盛の幅は同じであり,摂氏 0 度は 273.15 K です。つまり,例えば 300 K は摂氏 26.85 度のことです。 ) ですが、暗部は大体 4500 K 程、半暗部は 5500 K 程の温度です。このため、周囲の表面に比べて明るさが、暗部で20 %、半暗部で 75 % 程度となっていて、太陽表面を観察するための望遠鏡では黒く写ります。

では、なぜ黒点の温度は低くなっているのでしょうか?その答えを知るためにはまず、太陽の表面温度がどのように決まっているのかを理解する必要があります。太陽の表面からはエネルギーが光として宇宙空間に逃げて行くので、表面は放っておくとどんどん冷えていきます。一方で、太陽内部の気体は、味噌汁のように対流することで、熱い内側から冷たい表層へ熱を運んでいます。奪われる熱量と運ばれてくる熱量のバランスによって、表面は 6000 K という温度を保っています。

図 10   静穏領域と黒点表面の熱収支の比較

磁力線の束が存在すると、状況が変化します。記事「プラズマと磁場:磁力線が「実体」を帯びる」で説明しているように、磁力線は プラズマ 脚注 [プラズマ]:粒子が電子を手放して電荷を持つようになることを電離と言います。太陽内部やコロナは温度が高いので、主な構成元素である水素やヘリウムは、電離してイオンの状態で存在します。電荷を持った粒子を含む気体をプラズマと言います。太陽表面は温度が不十分なので、一部の粒子のみが電離しています。この状態を部分電離と言います。 に対して相対的に移動することができません (凍結定理)。このため、気体が対流すると、それに伴って磁力線も動かなければなりません。磁場が弱いうちは対流のエネルギーが磁場に勝り、磁力線が対流運動に従って動いていますが、黒点ほどの磁場の強さになってくると、磁力線の存在によって気体の動きが制限されるようになります。対流運動には磁力線に垂直な向きの運動が必要なため、磁力線の束の内部の対流は抑えられます。すると、表面に運ばれてくる熱量が減るため、バランスが崩れて表面の温度が下がります。図 10 に今説明したことの模式図を示しました。

半暗部の構造はなぜできるのか?

黒点が黒くなるメカニズムは説明しましたが、半暗部のフィラメント構造はどのようにしてできるのでしょうか?最近の高解像度の望遠鏡を用いた観測によって、半暗部には次のような特徴があることが分かってきました。

  • フィラメント (おたまじゃくし) の領域の磁場は、半暗部のそれ以外の領域の磁場より水平である (太陽表面に対して寝ている)。
  • 磁場の水平な領域は、半暗部の内側では周りより明るく、外側では暗い。
  • フィラメントの部分では半暗部の内側 (暗部側) から外側に向かってほぼ水平方向の速い流れがある (エバーシェッド流)。
  • おたまじゃくしの頭 (輝点) では上向きの流れがあり、おたまじゃくしの尻尾付近には下向きの流れがある。

これらの観測結果を踏まえて、現在、正解に近いのではないかと思われている半暗部のモデルを 図 11 に示します。

図 11   半暗部の磁場構造の模式図

図のように、半暗部において立っている磁場の中に、所々寝ている磁場が存在していると考えられています。寝ている磁力線が暗部側で突き出している箇所が輝点に相当します。この磁力線はしばらく表面を這い、半暗部の外側で再び内部に潜ると考えられています。寝ている磁場に沿って外向きの流れ (エバーシェッド流) が存在します。輝点では突き出す磁場に沿って上向きの流れが存在します。この上向きの流れは内部の熱い気体を表面にもたらすので、輝点は明るくなります。もたらされた気体はエバーシェッド流に乗って外側に行くにつれて、放射によって冷やされます。このため、半暗部の外側のフィラメントは暗くなります。冷えて密度が高くなった気体は磁力線と共に再び内部へと潜ります。このため、フィラメントの尻尾付近では下向きの流れが観測されます。このモデルは、磁力線の構造を櫛が挿された髪になぞらえて、英語で「interlocking comb」構造と呼ばれます。

図 12   放射磁気流体シミュレーションによって再現された黒点半暗部の様子:a) 放たれる光の強度 b) 磁場の黒点外側に向く成分 c) 磁場の鉛直成分 (上向きが正) d) 磁場の傾き角 (鉛直上向きの場合 0 度) e) 気体の速度の黒点外側に向く成分 f) 気体の速度の鉛直成分 (上向きが正) Rempel (2011) の Figure 3。米国天文学会 の許可を得て掲載。© AAS. Reproduced with permission.

図 12Rempel (2011) によって計算された黒点の様子です。3次元的な箱の中で 磁気流体力学 脚注 [磁気流体力学]:液体や十分に濃い気体の速度、温度、圧力や密度などの時間発展を計算するための理論を流体力学と言います。特に、プラズマのような電気を通す流体を記述するために、流体力学と電磁気学を融合させた理論を磁気流体力学 (MHD) と言います。 放射輸送理論 脚注 [放射輸送]:太陽を構成するプラズマは高温なので、通常の熱伝導や熱対流に加えて、光を放出したり、近くで放出された光を吸収したりすることによって運ばれるエネルギーも無視することができません。これを放射輸送と言います。周りの物質分布や温度などの情報から、各場所での光の強度を計算するための方程式を放射輸送方程式と言います。 の方程式を計算することで、コンピュータ上に黒点を再現することに成功しています。例えば図の a) は、再現された半暗部 (太陽表面) を仮に上から観測したらどのように見えるかを表したものです。半暗部の構造が上手く再現されていることが分かります。この計算結果の解析によると、明るいフィラメント部分には確かに水平方向の磁場とエバーシェッド流が存在しているようです。筆者は内部から対流によって上がってくる気体が水平磁場にぶつかることで運動方向が水平に曲げられ、エバーシェッド流が駆動されていると結論付けています。

このようなシミュレーション結果の解析によって描かれたシナリオが現実の太陽で起きているのかを判断することは、現在の観測データでは難しく、観測技術の発展が望まれます。

参考文献

記事全体として参考にしたレビュー

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