太陽コロナに現れる明るい領域
図 1 はSDOと呼ばれる観測衛星が撮影したとある日の太陽 コロナ 脚注 [コロナ]:高度数千 km より高層の大気を指します (太陽半径は約 70 万 km)。極端紫外線や X 線で見ることができます。 です ( 図の色について 脚注 [図の色]:図に映っている太陽の色は人工的に着けられたものです。惑わされないでください。これらの図は、特定の波長の光だけを通すフィルターを付けた望遠鏡によって撮影されたものであり、要はモノクロ画像です。得られた光の強度を慣習に従った色によって図示しています。 )。温度が大体 100 万 K ( ケルビン 脚注 [ケルビン]:温度の単位には基本的にケルビン (K) を用います。日常で使われる摂氏と目盛の幅は同じであり,摂氏 0 度は 273.15 K です。つまり,例えば 300 K は摂氏 26.85 度のことです。 ) の物質が明るく映るような波長 (19.3 nm) の 紫外線 脚注 [紫外線]:電磁波 (光) のうち、波長が大体 10 nm から 380 nm の領域のものを紫外線と言います。波長 10 nm 付近 (極端紫外線) にある輝線はしばしばコロナの観測に用いられます。紫外線は地球大気に吸収されるので、宇宙からの観測が必要です。 を捉えた画像です。なぜ特定の波長の光を捉えると、コロナだけが明るく映るのかについては記事「スペクトル線:なぜ様々な光で観測するのか?」で説明しています。
コロナは平均的に温度が 100 万 K なので、全体的に明るく映っていますが、赤丸で囲った部分は特に明るく映っています。このような部分を活動領域 (active region, AR) と言います。活動領域は数週間の時間スケールで気まぐれに現れたり消えたりします。
図 2 は 図 1 と同時期に撮られた画像を連続的に表示させた動画です。ただし、図 1 とは違う波長で撮られていて、こちらの動画ではコロナの中でも特に熱い、約 1000万 K の物質が生成されると明るく輝きます。記事「差動回転:回り方がおかしい?」で説明しているように、太陽は大体 30 日の周期で自転しているので、地球から見える活動領域はそれに伴って図の右へ移動して行きます。
活動領域はこの動画でもやはり明るく映っています。動画を眺めていると、ときどき活動領域でチカチカと輝くのが確認できると思います。動画の中でひときわ大きな輝きを赤い矢印で示しました。このように一瞬明るく輝く現象はフレア (flare) と呼ばれます。記事「フレア:太陽大気で起こる爆発」で説明しているように、フレアは活動領域で複雑に絡まった 磁力線 脚注 [磁力線]:各場所での磁場の向きを繋げた曲線を磁力線と言います。理想的には磁力線の密集度がその場所での磁場の強さ (単位 T, テスラ) を表しますが、実際の図では特徴的な磁力線だけを間引いて描くため、この限りではありません。磁力線が分裂したり合流したりすることはありません。電気を通すプラズマでは磁力線は物質に凍結している (物質は磁力線に垂直な方向に動くことができない) ので、磁力線の動きはその場所でのプラズマ (物質) の動きを表します。 が起こす爆発現象であると考えられています。このように、活動領域はフレアの量産源です。因みに、赤い矢印で示したフレアは中規模に分類されます。
活動領域は磁力線の絡まり
図 3 は別の日に観測された活動領域に注目した画像です。(A) は コロナを映したものですが、特にコロナループと呼ばれる構造が良く見えるような波長 (17.1 nm) の紫外線で撮られた画像です。コロナループとは 図 4 の (a) に赤線で示したような構造のことです。記事「プラズマと磁場:磁力線が「実体」を帯びる」で詳しく説明していますが、大気を構成する プラズマ 脚注 [プラズマ]:粒子が電子を手放して電荷を持つようになることを電離と言います。太陽内部やコロナは温度が高いので、主な構成元素である水素やヘリウムは、電離してイオンの状態で存在します。電荷を持った粒子を含む気体をプラズマと言います。太陽表面は温度が不十分なので、一部の粒子のみが電離しています。この状態を部分電離と言います。 は磁力線に垂直な方向には動けず、熱も伝わらないという性質を持ちます ( 図 4 の (b) 参照)。つまり、プラズマは磁力線の間に閉じ込められ、磁力線に垂直な方向には温度や密度が激しく変化することになります。このために、特定の波長で観測すると、磁力線自身が浮き彫りになります。つまり、コロナループは磁力線を表します。全ての磁力線があらわになっているわけではなく、条件の良かった磁力線だけがコロナループとして表れていることには注意が必要です。
図 3 の (B) は同じ活動領域の太陽表面での様子を映したものです。活動領域のふもとの表面には黒点があることが分かると思います。記事「黒点:磁場が通り抜ける「穴」」で説明しているように、太陽表面の磁場が強い領域が黒点になります。このことは図の (C) からも見てとれます。図の見方についてはキャプションを見てください。
図 3 の (D) は (C) のように観測された太陽表面での磁場の様子を基に、電磁気学的な力のつり合いを仮定して計算することにより推定された、上空大気の磁力線の様子です。このように、活動領域の中心部には複雑に絡まった磁力線が存在すると考えられています。一般に磁力線の絡まった状態はエネルギーが過度に溜まってしまっている状態なので、磁力線は絡まりをほぐしてよりエネルギーの低い状態になろうとします。その過程で磁力線がつなぎ変わり、エネルギーを解放する現象がフレアです。
図 3 の (D) のように、観測された磁場をインプットして磁力線の構造を推定する研究は、近年のコンピューターの発達によりやっと可能になってきました。リアルタイムで精度よく磁力線を推定できれば、注目する活動領域で大きなフレアが起きうるのか、更にはいつ頃起きるのかまで予報できる時代が来るかもしれません。
活動領域の出現
図 5 は一週間程度に渡って撮影された太陽コロナと表面、表面の磁場の様子です。図の見方についてはキャプションを見てください。動画を見ると、初めに赤丸で囲った部分からコロナループが顔を出し始める様子が見られます。それと同時に磁場の図では同じ場所で白と黒の対が形成され始めます。その後に太陽表面でも黒点が形成され始めます。活動領域およびそのふもとの黒点はこのように突然現れ始めます。大まかには次のようなシナリオによって出現しているのだろうと考えられています。
記事「11 年周期:太陽の睡眠サイクル」で説明しているように、 対流層 脚注 [対流層]:太陽半径を \(R_\odot =\) 約 70 万 km としたとき、\(0.7 R_\odot \)から表面 (\(1 R_\odot\)) までの領域を指します。この領域では主に熱対流によってエネルギーが外側へと運ばれます。 の底には 図 6 の (A) ように強い磁場が横たわっていると考えられています。磁力線の束には浮力が働く性質があるため、底にある磁力線のうちのいくらかは 図 6 の (B) のように表面まで浮上してきます。
浮上してきた磁力線の束はプラズマの対流に揉まれて、ある程度ねじれた状態の束になっていると考えられています。この束の一部が 図 7 のようにして太陽表面から顔を出した場所が活動領域になります。太陽大気 (コロナ) は内部より気体の圧力がずっと小さいので、顔を出した磁力線は周りのプラズマに影響を受けることなく、なるべくエネルギーが低くなるような構造を取ります。基本的にはループ状の構造です。これがコロナループとして観測されます。
突き出した磁力線の足元の表面ではプラズマの対流が抑えられ、次第に冷えて暗くなります。これが黒点です。つまり、黒点は基本的には異なる極性を持つ対で存在します。このうち、磁力線が内部から大気へ突き出す向きのものは P 極、大気から内部へ入っていく向きのものは N 極と呼ばれます。小さな活動領域の場合には磁場の強さが不十分で、片極または両極の黒点が形成されない場合もあります。
上の図は簡略化されていますが、実際には 図 3 の(D) や次の節で述べるように、出現する磁力線は複雑に絡まっているため、磁力線がつなぎ変わる現象がたくさん起きます。記事「様々な現象を引き起こす磁気リコネクション」で説明しているように、一般に磁力線がつなぎ変わるとエネルギーを解放します。それによって周りの物質は吹き飛びますが、エネルギーの一部は熱に変換されます。この熱が一因となって活動領域は熱く輝いていると考えられます。
大きなフレアを起こす複雑な黒点
小さい黒点は 図 7 のように単純な対 (バイポール型) で存在することが多いですが、大きな黒点はしばしば複雑に極性が入り乱れます。例えば 図 8 は 図 3 の活動領域が成長していく様子を、 彩層 脚注 [彩層]:太陽大気のうち、高度 500 km から数千 km の層を指します (太陽半径は約 70 万 km)。太陽表面より少しだけ上の領域と考えてください。例えば波長 656.3 nm (Hα 線) や 396 nm (Ca H 線)、 30.4 nm の光などで観測すると見ることができます。 、 光球 脚注 [光球]:フィルターを通さずに可視光で観測したときに明るく映る層のことです。大雑把にはこの層が「太陽表面」と呼ばれます。より細かくは高度 0 から 500 km あたりの層を言います。 (表面) の磁場、コロナの 3 種類の観測で同時に追ったものです。2011 年 2 月 12 日の 10 時から 4 日間の映像です。
図を見ると、まず、12 日の 13 時あたりから、新たな磁力線の束 (磁束管) が大気に顔を出し始めます。このときに、彩層では顔を出した磁束管のふもとが輝き、たくさんのつぶつぶ模様として見えています ( 図 9 参照 )。これらの粒々はやがて冷えることで小黒点に変わり、小黒点は集合することで大きな黒点へと成長していきます。
13 日の 20 時を過ぎる頃には、ひとまず磁場の浮上は落ち着いたように見えます。このとき、光球の磁場は 図 10 (A) に示したように、4つの極が混在した構造を持っています。これは単純化すると 図 10 (B) のように、磁力線の束の 2箇所が太陽表面から顔を出したものなのではないかと考える研究者もいます (詳しくは Toriumi & Wang, 2019) 。
図 8 の動画ではその後、P 極の 1 つが N 極の後ろに回り込むような回転運動を始めます ( 図 11 参照 )。この動きも相まって、コロナを見ると、磁力線が複雑な構造をしているように見受けられます ( 図 12 参照 )。この直後、2 時前後の時間帯に、動画の中でいちばん大きなフレアが発生しています。
上述したように、磁力線の束の 2 箇所が顔を出したときに 4 つの極が混在する黒点が形成されるとする説の他にも、例えば 図 13 のように、ねじれた磁力線を浮上させると 4 極の黒点が形成され得るとする研究もあります。このように、活動領域の磁力線はなぜ複雑になるのか、その原因を調べる研究は現在、精力的に行われています。
複雑な形の黒点は必然的にその上空の磁場構造も複雑になるため、磁力線の絡まりによって大きなエネルギーが溜まります。よって、大きなフレアを起こす可能性が高まります。黒点の形の複雑さの分類方法として次のものが用いられることがあります。
- α (アルファ):単体で存在する黒点 (2 極のうちの片側だけが黒点に成長したもの)
- β (ベータ):2つの極から成る単純な黒点の対
- γ (ガンマ):β には分類しがたいような複雑な極構造を持った黒点
- βγ (ベータガンマ): 全体としては一対の極構造をしているが、両極の境目が複雑な黒点 (群)
- δ (デルタ):異なる極性の暗部が接近していて共通の半暗部を持つような黒点 (暗部や半暗部の意味は黒点の記事を見てください)
これはマウント・ウィルソン分類と呼ばれます。図 14 に模式図も示しました。 図 15 は各規模のフレアがどのような形の活動領域で起きたかの統計性を示したものです。フレアの規模について詳しくは フレアの記事 で説明していますが、X は大規模、M は中規模、C は小規模なものを指します。大きなフレアは複雑な黒点で起きやすいことが分かります。特に大規模なフレアは βγδ (極性が複雑でかつコンパクトにまとまった黒点) で起きることが分かっています ( Sammis et al., 2000 )。
表面下の現象を知りたい
上述した活動領域出現のシナリオは、様々なシミュレーションによって断片的に明らかになってきたものをつなぎ合わせたものです。対流層の底に適切な強度の磁力線の束 (磁束管) を置き、表面付近まで浮上する様子を調べる研究では、1 つの磁束管のみに注目するようなシミュレーション手法が用いられてきました ( 詳しくは例えば Fan, 2009 )。そのような手法では、磁束管が複数に引き裂かれる、ねじれる、などの現象を考慮することはできません。
一方で、磁束管にある程度のねじれが無いと、浮上してくる過程で磁力線がばらばらに引き裂かれて、観測される活動領域のようにまとまった磁力線の束として表面から現れることができないのではないかという指摘もあります。また、近年の研究で、表面の下にねじれた磁束管を置けば、観測されるような複雑な黒点が形成されることも分かってきました。ただし、全ての黒点が複雑な形状をしているわけでもありません。
磁束管が対流層内部でどのようにねじれるのかについては、まだよく分かっていないのが現状です。対流層の底に横たわっているときから既にねじれているのかもしれませんし、浮上の過程で獲得するのかもしれません。対流層の底と表面近くを構成するプラズマは圧力や密度がかなり異なるため、これらの領域の一貫した、かつ磁束管のねじれまで解像できる精密なシミュレーションを行うことは、現在のコンピュータの能力では難しい挑戦です。
また、記事「太陽内部を探る日震学」で説明しているように、太陽内部の流れを観測から知る方法は一応あるのですが、浮上する磁力線の動きは速すぎて、この方法で活動領域形成の兆候を見つけることはなかなか難しいようです。理論と観測技術の両面において、太陽表面の下で起きているダイナミクスの解明が望まれます。
参考文献
記事全体として参考にしたレビュー
- Toriumi, S. and Wang, H. (2019). Flare-productive active regions. Living Reviews in Solar Physics, 16, 3 .
引用した文献
- Fan, Y. (2009). Magnetic fields in the solar convection zone. Living Reviews in Solar Physics, 6, 4 .
- Guo, J., Lin, J. and Deng, Y. (2014). The dependence of flares on the magnetic classification of the source regions in solar cycles 22–23. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 441, 2208-2211 .
- Inoue, S. (2016). Magnetohydrodynamics modeling of coronal magnetic field and solar eruptions based on the photospheric magnetic field. Progress in Earth and Planetary Science, 3, 19 .
- Sammis, I., Tang, F. and Zirin, H. (2000). The dependence of large flare occurrence on the magnetic structure of sunspots. The Astrophysical Journal, 540, 583-587 .
- Takasao, S., Fan, Y., Cheung, M. C. M. and Shibata, K. (2015). Numerical study on the emergence of kinked flux tube for understanding of possible origin of δ-spot regions. The Astrophysical Journal, 813, 112 .